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東北大学 葛西栄輝先生の最終講義
2023/03/21
東北大学大学院環境科学研究科の葛西栄輝教授の最終講義にお邪魔して参りました。
東北大学大学院環境科学研究科 先端環境創成学専攻 葛西研究室
毎年、この時期に、最終講義のご案内が来ると、こみ上げる寂しさ。
ここ数年の間、退官された先生方。。。葛西先生とも、あらためて、指折れば10年来のお付き合いになります。
震災後に建てられた青葉山キャンパスの「マテリアル・開発系 教育研究棟」
環境科学研究科の中で、「材料(マテリアル)系」の研究室が入っている建物ですね。
最終講義の会場で、講義前の葛西先生とにこやかに話される知古の先生方。
同じく退官される先生もご自分の最終講義の後に駆けつけていらっしゃいました。
何十年も勤め上げた教員としての日々、成果を目指し研究に没頭した年月を知るにあたり、こちらの一抹の寂しさとは裏腹に・・・清々しさすら漂う、先生方の表情が眩しく感じます。
司会の和田山智正先生から紹介があり、登壇された葛西先生の講義テーマ(タイトル)は「鉄鉱石塊成化プロセスと環境工学」
青森県のご出身、その後、秋田県へ引っ越され、進学で宮城県の東北大学へ・・・
「東北6大祭」の写真を使って、至極分かりやすく変遷をお話下さいました。
東北大学へ進学すると、そのまま研究室勤務となり、なんと4名!の教授に仕えたそうで・・・常日頃の気遣いの細やかさやスマートな行動はここで培われたものと推察!
今の海外事情とは異なっていた時代の韓国、そして、オーストラリアでの長期研究活動もご経験されました。
学生時分は物理や数学など、比較的、答えが明確な学問が得意であったそうですが、時代の変化とともに『環境工学』の礎となる化学工学・反応工学、金属工学、無機・有機化学をフルに使った研究分野へ邁進していくことに。
1980年代は、非鉄金属製錬、鉄鋼製錬、粉体工学・化学工学の研究。
1990年代に、非鉄精錬、リサイクルの研究に従事、そして、2000年を迎えると所属する研究所が『多元物質科学研究所』に改組となります。
多元物質科学研究所(片平キャンパス)は、東北大学伝統の素材工学、科学計測、反応化学の異分野を統合した研究所で「新たな物質科学技術の研究」を創り、社会展開可能な成果を目指した研究所です。
その後、資源変換、再生プロセス、高度資源利用、資源循環の研究時代、この間に教授に就任すると、2011年に環境科学研究科へ。
4月就任直前に、あの東日本大震災に遭遇、新研究室のスタートは、試練の時であったそうです。
葛西研究室の研究テーマは、以下の記載(あくまで易しく解説:葛西研HPより)
『素材製造やリサイクルプロセスを効率化して、あまりエネルギーを使わず(CO2発生量を削減しつつ):
- 現在は捨てられている廃エネルギーを使いやすい形に変換する
- 環境に悪影響をもたらす化学物質や重金属を排出しないようにする
- 汚染された環境を効率的に修復(除去、無害化)する
また、研究内容の冒頭文には、「波及効果の大きな基幹金属素材の製錬,廃棄物処理,再生利用など・・・」とありますが、講義を聞き進めると、徐々に意味が分かってきます。
基幹金属素材として、いの一番に挙がる”鉄”
普段、私たちの生活、身の回りを見渡せば、鉄が材料となるものが、何と多いこと!
大きな建造物(ビルや橋)、移動手段としての車や船など、”鉄”の存在は大きいです。
それもそのはずで、世界の金属素材の年間生産量のグラフを見れば、鉄鋼が占める割合は約94%という圧倒的な数値。ちなみに2番手はアルミニウムですが、3%足らず!
しかも、アジア圏での鉄鋼生産量は約74%、さらにその半分以上が中国で生み出されています。
それゆえ、カーボンニュートラルを目指す現代において、日本だけで言えば、国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業の製造プロセスの脱炭素化は喫緊の課題であることは自明のこと。
つまり造る上でのプロセス(過程・工程・方法)や素材に目を向けて、環境負荷低減の徹底をはかるための研究分野ということです。
また、葛西先生と言えば、ダイオキシンやアスベストなどの有害物質を安全に処理するプロセスの実用化、私たちに身近なものでは廃棄物の焼却施設にも深く関わっておられ、公害防止の技術普及や管理者の育成にも長年、尽力されています。

講義後半のスライドで、研究の本分、そして、研究に不可欠なもののお話しがありました。
「現象の本質を知るための(工学的)センス」(が必要!)
・現象を細分し、それぞれを検討し イメージを再生
・イメージを再現可能な実験装置の設計
・実験条件策定時は、事前に結果を予想
そして、下記、a.~d.は飽くなき反復、繰り返しながら解明を続けること
a. 得られた結果を予想した結果と比較
b. 予想と異なる結果の場合は、理由を考察
c. 次の実験条件を策定
d. 試料調製から実験終了まで、装置(現場)で観察
あらためてHPを拝見すると、研究者を目指す学生に向けて、特に強く発信されていました。
講義も終盤となり、これまで教えを受けた先生、研究室の先生方やスタッフ、社会に送り出した100名近くの学生の名前が次々とスクリーンに投影され、謝辞を述べられました。
講義が終わると、檀上で関係者の方々から、次々と花束を受け取られ、写真撮影に応じていらっしゃいました。
いよいよ最終講義の締め、司会の和田山先生から「葛西先生は趣味が多くていらっしゃる」とコメントがあると、間髪入れず、スクリーンには、優勝力士が土俵の上で持つような、大きな大きな鯛を抱える写真の数々が!会場がドッと沸きました。

葛西先生は学生時代にアルバイトで配管などの施工の経験があるとお聞きしたことがあります。
また、若手研究者だった時分は、大学の研究所に金工、木工、ガラスの工場があり、各技官さんに学んだため、旋盤、ネジ切り、ガラス細工、溶接技術をお持ちで
趣味で陶芸もこなす”設計やモノづくり”のセンスにも長けていらっしゃると思います。
職人になるわけではありませんが、これが、どれだけ、以降の研究活動に役立ったかというと・・・
大学の研究室にお邪魔すると気付くのが、研究装置で既製品は、ほぼ存在しないということです。そう、手作りの装置で行うことは、研究の基本!
考えてみれば、新しいプロセスの研究は、これまでにないことに挑戦するのですから、実験研究のプロジェクトを立ち上げた人が自ら設計を行い、業者の方に協力を得ながら自作することになります。
自己実現のため、人とのコミュニケーションも含めた、様々なセンスが試され、また、磨かれるのが研究(活動)ということでしょうか。
最終講義における葛西先生からの極め付きのメッセージ。
『 研究は、楽しい(楽しむ)もの 勉強も、人生も楽しんで欲しい!
楽しんでいる人には誰もかなわない』
僭越ながら、特に最後の一文に、私は心から共感いたします。